異界に迷い込んだ少年はどう成長する?「夜宵」


人が去り静かに朽ちていくだけのゴーストタウンは、人ならざる者が潜んでいるのではという妄想を呼び起こします。人間の影が消えたゴーストタウンを舞台にした不思議なホラー小説、「夜宵」という作品を今回はご紹介したいと思います。

生身の人はいないはずの異界のゴーストタウンに迷い込んだ少年の成長を記した作品で、幻想的な美しい光景とともに猟奇的な要素が隠されたダークな世界観となっています。

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「夜宵」の本の紹介について

こちらの本はライトノベル出身の作家である柴村仁さんが書いており、どちらかと言うと若い人向けのファンタジー作品になります。若い人が好むライトノベル系のファンタジー小説は設定が軽いとの印象を持っている方もいますが、「夜宵」は重厚な構成となっていて読み応えがあります。

「夜宵」は湖に浮かんでいる異界のゴーストタウンで繰り広げられる物語で、話の構成の中にミステリー的な部分も練り込まれています。ゴーストタウンでは1年の終わりにかけて短い間だけ「細蟹(ささがに)の市」という市が開かれます。この市にはあらゆるものが扱われていて、どんなものでも手に入れられるのです。

物語の主人公は自分に関する記憶がない少年・カンナで、どこから来たのかカンナは異界の細蟹の市に迷い込んでしまいました。この市にいるには異形であることが条件で、人間そのものの姿をさらしている者はいません。たとえ人が紛れていても面で素顔を隠し、異形の姿に身をやつすことがルールです。

迷子の人間の少年は市に災いをもたらすとでも思われているのか、不気味な双子の少女たちに「不吉」「混沌を呼ぶ」と唄われる。自分のことについても迷い込んだ世界のことについても知らないカンナは、白い老人のお面を被り黒い和服を着た役人・サザによってその身を保護されることになる。

記憶なき少年の成長と困難

「夜宵」のメインテーマは少年の成長になっており、主人公のカンナは物語の中で数々の困難に立ち向かいながら強く育っていきます。

細蟹の市に迷い込んだカンナは以前の記憶を全て忘れていて、どこで帰ればいいのか分からない不安な状態でした。カンナは運よくサザという保護者を得て一緒に生活することになり、異界の中で暮らし馴染んでいきます。サザに見守られながら大きくなっていくカンナは、年頃が近い少女・まことという親しい友だちもできそれなりに平穏な子供時代を送ります。

カンナとまことは成長するに従い、次第にお互いを想い合うようになる。2人が逢瀬を重ねる場面は幻想的でとても印象的です。

主人公の想い人であるまことは細蟹の市が関わる重い運命を背負わされていて、カンナとまことの恋の成就は叶わない。カンナを案じるまことは細蟹の市を出るよう言い残し、彼の前から姿を消す。

まことを想うカンナは彼女と再会するために行動をし、細蟹の市の闇に触れることになります。

不思議な市はキレイなものばかり売っているわけではない

「夜宵」は幻想的な世界観を持っていますが、猟奇的な部分がありダークな世界観でもあります。細蟹の市は何でも売っていますが、そこで売られているのはキレイなものばかりではないのです。

お腹に子どもを宿す女性は赤ちゃんに良い効能があるという「チョコレートスープ」を探しますが、そのスープは絶対に口にしたくない材料で作られています。スープの材料は胎児であり、赤ちゃんのために女性が求めたスープは生まれてこなかった命が元でした。スープ以外にもグロイものが山ほど売られているようです。

細蟹の市には特別な役目を持った人間のままでいることを許された乙女・細蟹さまという存在がいて、この細蟹さまに選ばれた乙女が受ける試練がエグイ。細蟹さまは証として両足の内、片足を切り落として一本足にならなければいけない。

カンナに姿を見せなくなったまことは、実は次代の細蟹さまに選ばれていました。カンナが再会いした時のまことは、片足を切られ細蟹さまの立場になっています。

細蟹の市に広がる闇は深いので、心して読むことをおすすめします。

おわりに

異界の闇の中で開かれる細蟹の市。カンナが迷い込んだのは偶然なのか、必然なのか?記憶喪失の少年がどのような運命を辿るか知りたい人は、「夜宵」を手に取り美しくも陰のある異界へと足を踏み入れてみましょう。


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