上橋菜穂子が描く狐の少年と異能の少女の想いが切ない「狐笛のかなた」


日本の昔話には、「鶴の恩返し」のように人外の者と人間が結婚する異類婚姻譚が結構あります。

『精霊の守り人』シリーズや『獣の奏者』シリーズで有名な上橋菜穂子氏著作の、『狐笛のかなた』もある意味では異類婚姻譚の要素が含まれている作品です。

妖怪と人間が恋に落ちる話などが好きという人は、『狐笛のかなた』をぜひ読んでみましょう。

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『狐笛のかなた』はどんな本?

『狐笛のかなた』は和風幻想世界が舞台の児童小説です。

理論社出版から出版され、現在は新潮文庫で入手できます。和風ファンタジーの名手である上橋菜穂子氏の作品だけあり、通常の児童小説よりも心理描写などがずば抜けています。
第42回野間児童文芸賞・第51回産経児童出版文化賞推薦を受賞していて、文学界でもとても高い評価を受けています。

『狐笛のかなた』の簡単あらすじ

この物語は異能の才を持つ主人公の少女・小夜が、土地を巡る領主同士の争いに巻き込まれていくという流れになっています。

小夜は幼い頃に母を亡くし、人里から離れた森で祖母と暮らしていました。
住処である森の中で体に傷を負った子狐を小夜が助け、その子狐を追う猟犬からかくまってくれたのが縁で少年・小春丸と知り合うように。

小夜が助けた子狐は実は元は神の住む世界にいる霊狐で、普通の狐の子ではありません。
小春丸もただの少年ではなく、森の中にある屋敷に幼いながら幽閉されている訳ありの身の上。
小夜自身も生き物の心の声が聞こえるという「聞き耳」の能力を持つ異能者です。

神の住む世に生まれながら不幸にも人間の術者につかまり使い魔にされた子狐は、助けてくれた小夜を慕い陰から見守るようになります。
屋敷に閉じ込められて暮らす小春丸は、偶然に出会った小夜とひっそりと交流を持つようになっていきます。

きっかけで縁ができた二人と一匹。小夜・子狐・小春丸。

数年後に成長した彼らを中心にして、物語は大きく動き出します。

重い運命を持った登場人物たち

児童小説なのにシリアスな『狐笛のかなた』の登場人物の多くは、何かしらの重い事情を抱えています。

中でも特に重い事情というより、重い運命を持っているのが、話の中心人物となる小夜・子狐の野火・小春丸たち。
彼らの生い立ちや立場が、話の展開に深く関わっています。

常人にはない力を持つ異能者・小夜

小夜は父を知らず幼い頃に母を殺されるという、辛い過去があります。

さらに彼女には周りにいる生き物の心が聞こえる不思議な力があり、それを他人に知られないように隠して生きなければならない宿命まで背負っています。

孤独でどうにもならない秘密を抱えていても、小夜はひたぬきに生きる。
傷ついた子狐を助ける優しい心を持った彼女は、領主たちの争いに関わる中で敵となる領主の側の術者に仕える霊狐・野火を想うようになる。
昔助けた子狐であった野火のため、野火の主である術者の手から救おうとする。

物語終盤に野火のために、彼女が選んだ道がまた衝撃です。

囚われの霊狐・野火

野火は神の住む<彼の世>で生まれた霊狐ですが、運悪く人間の術者に生後すぐに囚われ使い魔にされてしまいました。

主の命があれば人の命を奪うことまでさせられる。
子狐の頃からそんな命令をされ、傷を負いながら追手から逃げていたところを幼い小夜に助けられます。
はじめて優しさを受けた野火は、違う生き物である小夜に惹かれていく。助けられてからずっと密かに小夜を見守り続け、健気に愛する者を想う野火。

彼が仕える術者は小夜には敵側の人間であるが、命を主に握られている野火は術者に従う他ない。
神聖な世界から引き離され全てを奪われて生きていた野火は、小夜への想いのために主に抗おうともがく。
使い魔にされた霊狐は汚れた身として、二度と<彼の世>には戻れない。

野火も自分が汚れていると自覚しているからこそ、小夜への「想い」を自分の唯一の美しいものとして手放せなかったのでしょう。

幽閉された若君・小春丸

猟犬から小夜をかくまい交流が生まれた少年・小春丸は、小夜の住む土地を治める領主の次男です。

敵の領主から命を狙われ安全のために、森の中にある屋敷に幽閉され育ちました。
家族と離され寂しい森の屋敷に閉じ込められ、大人たちの争いのせいで自由に出歩くことを許されない。小夜を助けた心優しい小春丸は、何年も幽閉された状態で暮らす内に次第に心が闇に蝕まれるようになります。

敵の領主側の術者は小春丸の心の闇を狙い、彼に呪いの術をかける。小春丸が森の屋敷に幽閉され隠されて育てられたのは、後継ぎである兄が万が一死んだ場合に備えて代わりの後継ぎを確保するためもあった。

そんな大人の思惑などに振り回されれば、心に闇を抱えるのも納得です。

おわりに

領主たちの争いの中で芽生えた霊狐の少年と異能の少女の恋は、紆余曲折を経て想いは通じ結ばれます。
異類の想い人と結ばれるために、小夜は「人間」ではなくなる道を選ぶ。

野火との恋の成就を望み、人でなくなった小夜は?
野火は、小春丸は救われるのか?

彼らの結末を知りたい人は、『狐笛のかなた』を手に取ってみてください。


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