【ネタバレあり】砂が人を食う!?「ザ・サンド」から学ぶB級パニック作品の楽しみ方


「ザ・サンド」は、2015年に製作されたアメリカのパニックホラー映画。
いわゆるB級作品の本作は、製作期間がたった12日間と短いものでした。

一度触ったら最後、のみこまれてしまう謎の砂の上に取り残された若者たちの脱出劇。
「人を襲う砂」という設定は斬新で、得体の知れないものに対する恐怖心と好奇心をあおり立てます。
それでいて「お約束」も外さない本作は、B級作品愛好家にはたまらないものでしょう。

いい意味で安っぽい本作は、グロテスクシーンに耐性ある人なら問題なく見られる一作です。
というより、ホラーではなくパニック映画として見てみてください。

その理由については、本記事で解説していきます。

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「ザ・サンド」のあらすじ


ザ・サンド

とあるビーチ、酒を飲んでは大盛り上がりの若者たち。
酔いつぶれた彼らが目覚めると、辺りは静けさに包まれていた。

妙な感覚におそわれたケイリーが見た先には、砂の中に沈んでいく1羽の鳥。
異常を察知し、砂に触らないよう皆に注意を促し、叫ぶケイリー。

しかし時すでに遅く、1人は地面に片足を付けてしまっていた。

「ザ・サンド」の主な登場人物

ケイリー(ブルック・バトラー)

本作の主人公的人物。
常に周囲の状況把握に努め、冷静に脱出方法を考えようとする。

ジョナ(ディーン・ガイヤー)

ケイリーのボーイフレンド。
行動力にあふれ、状況打開のために積極的に動く。

シャンダ(ミーガン・ホルダー)

ジョナの浮気相手。
ジョナのことでケイリーともめながらも、協力しながら危機を乗り越えていく。

ミッチ(ミッチェル・ムッソ)

パーティーの主催者と思われる1人。
一夜限りの思い出とする「ベガスルール」のため、参加者のスマホを取り上げていた。

ロニー(シンシア・マレル)

車に残されたメンバーの1人。
スマホがしまわれた車のトランクを開けようと、決死の活躍を見せる。

ギルバート(クレオ・ベリー)

1人ドラム缶の中に入れられていた。
身動きが取れず、何もできないいらだちに声を荒げるばかり。

「ザ・サンド」の見どころとは

たくましさあふれる女たち

本作は、女性メンバーの活躍が特徴的です。
逆に言えば、男性メンバーで活躍する者はジョナを除けば一人もいません。
そんなジョナも、途中無数の糸状の触手に腹を刺され、行動不能に陥ります。

そして、あれやこれや言うが、行動力のないミッチ。
ドラム缶に詰められて、そもそも最初から身動きできないギルバート。
なんとも情けない男性陣。

その中である程度自由に動ける女性メンバーたち。
本作の物語を展開していくのはケイリー、シャンダ、ロニーの3人です。

しかし、女性たちの間にも込み入った事情があります。
特にケイリーは、ジョナに浮気され、その浮気相手がシャンダなのです。

状況が状況だけに、いがみあっている場合ではありません。
それでも、彼女たちは衝突します。
分かっていながらぶつかってしまうのは、悲しいかな、人間の性なのでしょう。

そんな2人の関係は、ジョナの行動によって変化していきます。

身動きが取れないからといって、このままではジリ貧なのも事実。
ジョナは思い切って、サーフボードを砂上に敷き、飲み物のあるベンチに向かいます。
その前に、腹を刺されてしまうジョナ。

監視小屋の手すりを使って、なんとかジョナスのもとへたどり着こうとするケイリー。
小屋から車に飛び移ったケイリーは、いきなりシャンダに思いきりパンチを一発。
殴られたシャンダは、「気が済んだか」とだけ言って終わります。
2人の間に決着がついた瞬間でした。

あれだけボロカス言い合っていた2人が、こうもあっさりとケリをつけてしまう展開。
「そんなもんかよ」と、少し物足りなさを覚えました。

とはいえ、ここで痴話ゲンカを見せられても作品上無駄でしかないので、省いたことは英断です。
そういう意味で、シャンダを一夜の浮気相手にした設定は、よくできています。

「ザ・サンド」は、ケイリーとシャンダの2人だけが生き残る結末です。
ジョナはパトカーまで運べたものの、結局息絶えてしまいました。
その他の連中は、その前に全滅してしまいます。

彼女たちの中心にいたジョナを残し、生き延びたケイリーとシャンダ。
因縁の2人だけが生き残ってしまうという結末には、目新しさがありました。

期待を裏切らない4つの「お約束」

本作には、B級ホラー映画の「お約束」が盛りだくさん。
これらをなぞることで得る楽しさが、本作の魅力の1つとなっています。

まず、舞台設定に注目してみます。

本作は、砂浜で夜な夜な繰り広げられるパーティーに参加する若者たちが主役。
砂浜でのドンチャン騒ぎのため、参加者はみな水着姿です。

この水着姿というのが「お約束」その1です。

パニック要素を含んだ作品は海を舞台としたものが多く、結果的に人物の恰好が水着になります。
いわゆるサメ映画などがその最たるもの。

金髪のビキニ美女が脅威から逃げ惑う姿。
このちょっとしたお色気要素が、パニックホラーには不可欠なのです。

次に、人物関係の視点から見てみます。

本作は登場人物が複数人出てきますが、関係性が見えるのはケイリーたち3人のみ。
それ以外の人物は、まったく触れられません。

そして、生き残ったのはケイリーとシャンダ。
何が言いたいのかというと、人物像が描かれたキャラクターは生き残る、ということ。
これが「お約束」その2です。

脱出に貢献しないミッチやギルバートは死んでしまいます。
最初に砂に飲まれた者も、ただのお色気要員でしかありません。
頑張りを見せたロニーも、あと少しのところで捕まってしまいます。
そして本作は、彼女についてキャラを掘り下げる部分がないのです。

ほんの少しでも、人物像や関係性が描かれていれば、その人物は主役。
それ以外は徐々に脱落していく運命にあるのです。

続いて、本作における脅威について。
今回はズバリ「砂」であり、厳密に言えば、砂の中にひそむ得体の知れない何かです。

この何かが糸状の触手を出し、それに触れたら最後、二度と離れません。
無数の触手が、おそろしいほどの力で砂の下に引きずり込み、食い殺します。
さながらアリジゴクのようです。

触手が刺さると、刺された者を中から外から破壊していきます。
捕食時の描写は、生き生きとグロテスクです。

ゴア描写を盛り込んでいくこともまた、「お約束」。
それは「砂」以外にも盛り込まれています。

ロニーが車の後部座席からトランクを開けようとするシーン。
彼女はトランクに指が挟まれっぱなしの状態になってしまいます。
なんとか手を引き出すも、その手は見ていられないほどに痛々しいものでした。

血や肉が飛び散り放題のシーンは、逆に安っぽさを引き立たせます。
しかし、これもまた醍醐味のうちなのです。

そして最後に、物語の途中で出てくる他者の存在。

本作では、ビーチパトロールが巡回で通りかかります。
助かる確信を得た連中は、必死で助けを求め、その表情は見るからに嬉しそうでした。

車から降りた警官は、若者たちに何をしているのか問います。
彼らは「砂」に襲われていると必死で説明するも、理解を超えた内容にいぶかしむ警官。
果ては「ドラッグをやっている」として、彼らの言葉に耳を貸しませんでした。

砂の上を歩いても、靴をはいている警官は触手に刺されません。
いよいよ信じない警官は、うっかり地面にカギを落とし、それを取ろうとして飲み込まれてしまいます。

このように、途中から登場する人物は、得てして何も解決してくれません。
期待ばかり持たせて、何もせずに退場していくパターンです。

これは期待が絶望に変わる高低差を狙った演出。
ですが、この手法はたいへん多くの作品に使われているため、目新しさはありません。
もはやルーチンのように、「お約束」が普通に展開されていくのです。

今回は特によくわかる「お約束」を4つ紹介しました。
これらをあまさず取り入れた「ザ・サンド」からは、B級映画のプライドすら感じられます。

基本に忠実ながら、脅威を「砂」にした本作。
「ザ・サンド」は、スタンダードなB級の楽しさと斬新さを併せ持った、意欲作といえます。

良くも悪くも緊張感のない作品

ここでは少しネガティブなことも紹介していきます。

本作からは、見ていてハラハラするようなスリリングな展開が期待できません。
全体として、張り詰めた緊張感が見られないのです。

ケイリーたちは、たしかに命の危険に身をさらしています。
ですが、実に若者らしいというか、彼らはそれ以外のことに意識を向けがちです。
ケイリーとシャンダの小競り合いがいい例でしょう。

その他、ギルバートは落書きされた顔で痛いだ辛いだと叫ぶばかり。
特に見どころもないまま死んでゆく彼。
かわいそうなのと同時に、彼はいったい何だったのか,疑問さえ浮かんでしまいました。

本作は血が大量に吹き出しますし、砂の下の見えない脅威もまた怖ろしい存在です。
ホラー作品としては十分なポテンシャルを持っています。

それでも、彼らの能天気なやりとりが、シーンの切迫感を削いでいるのです。

この一連の出来事が、炎天下のビーチで展開されていることも要因のひとつでしょう。
夜のシーンもありますが、イベントのほとんどは日中で行われています。

暗さや薄気味悪さ、寒気を感じさせるような描写は一切ありません。

人が死んでいった後の切り替えの早さも挙げられます。
パーティーで初めて会った間柄とはいえ、ドライすぎる印象がありました。

これらを好意的に解釈するとしたら、いい意味でホラー感をなくしているということです。

監督が意図して緊張感をなくしている感が認められます。
B級パニックホラー作品から、ホラーの要素を抜いたという印象です。

本作はなぜかホラー作品をうたっています。
ホラー作品は、ダメな人にとってはとことんダメなジャンル。

しかし、見れば見るほど本作はパニックムービーなんです。
そのジャンルだということで見れば、本作は十分に楽しめる内容になっています。

どうしてホラーにカテゴライズされているのかはわかりません。
とにかく、本作はホラーではなくパニックものとして見ることをおすすめします。

ただし、先に書いた通りゴア描写が盛りだくさんなので、その点には注意してください。

おわりに


ザ・サンド

パニック映画やホラー映画には、わざと「お約束」を使う作品も少なくありません。
今回の「ザ・サンド」もその1つです。

水着の金髪女子が出てきたり、ゴア描写を入れたり、警察は役に立たなかったりなど。
これらはB級作品における様式美だといえます。

こんな「お約束」ですが、これ自体は決してネガティブなものではありません。
「お約束」という言葉のニュアンスが、陳腐なイメージのレッテルを貼っています。
しかしこの設定は、ストーリー展開において非常に汎用性の高い、優秀なものなのです。

この設定を使っていても、描くもの次第で印象はいかようにも変わります。
作品を恐怖を楽しむものとするか、おバカさを売りとするかは、作り手次第となるのです。

「ザ・サンド」は、B級作品だからこそ放つ安っぽさをあえて楽しむ作品。
うがった見方ではありますが、それこそが本作を十二分に楽しむことができる秘訣です。


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