人型の赤子と一緒に生まれる異形の片割れは…実力派女流SF作家の短篇集「魚舟・獣舟」


SF小説が好きでまだ読んだことがない面白作品を探している方に、今回は「魚舟・獣舟」という本をご紹介させていただきます。

こちらの作品は独特な世界観と、物語に秘められた神秘性が魅力のSF短篇集になります。作者はSF作家にしては珍しい女性作家です。

女性作家のSF小説の読書経験がない人は、ぜひ読んでみてください。

スポンサーリンク

「魚舟・獣舟」の紹介

作者は上田早夕里さんという方で第4回小松左京賞受賞作、「火星ダーク・バラード」でデビューしました。その後に発表された作品はSF系が多く、「魚舟・獣舟」は日本SF大賞候補作になっています。

「魚舟・獣舟」を表題作とした短篇集は他に5作品が収録されていて、どれもレベルの高い作品ばかりです。表題作を含めた何作かはホラーアンソロジー「異形コレクション」掲載のため、SFにプラスしてホラー要素も入っています。

異なる形で生まれる双子・人の体に寄生する茸・人工知能・近未来都市など、収録作品にはSF好きの心を引きつける設定がたっぷりあります。

作者は女性でありますが、全ての作品の主人公は男性になっています。男性としての物の見方がよく捉えられていて、上田早夕里さんの作家としてのレベルの高さが伺えます。

収録作品のあらすじ紹介

短篇集に収録されている全6作品のあらすじを、簡単にご紹介したいと思います。ある作品は妖怪も出てきて、毛色の変わったSF世界観を楽しめます。

魚舟・獣舟

現代社会が崩壊した近未来では、世界の陸地の大半は水没してしまっている。人々は陸上か海上で暮らしていて、主人公の「私」は海上暮らしだったが現在は陸上生活を選んだ。海上の人は「魚舟」というものに乗っている。

魚舟は人と血が繋がった存在。人は子どもを産むときは、それぞれ異なる形の双子を産み落とす。一人は人の子の形で生まれて、もう一方の子は魚の形で生まれてくる。人の子は手元において育てるが、魚の子は海の中に放ってしまう。魚の子は育つと人を乗せる魚舟になる。

主人公は魚舟で暮らすことをやめ、獣舟を駆除する仕事とし陸上で暮らす。そんな主人公の元に昔一緒に海上で暮らしていた仲間・美緒が、獣舟を駆除しないよう頼みに来るが…。獣舟と魚舟の関係が分かると、駆除される獣舟に何とも言えない気持ちになります。

ブルーグラス

主人公はスキューバ・ダイビングを趣味にしていた。ダイビングをよくしていた海の中に、「ブルーグラス」を昔おいてきた。ブルーグラスは音への反応で、樹木のように育つ物質を入れてあるオブジェのこと。

主人公は結婚し家庭に落ち着くと、趣味のスキューバ・ダイビングをしなくなっていた。ダイビングしていた海が環境保護で入れなくなると知り、その前に海へと久しぶりにやって来る。

主人公がブルーグラスを海中においたのは、昔の恋愛が絡んでいるようです。

真朱の街

とある街の特区は、技術発展のために作られた場所。そこには妖怪たちも存在している。技術が進み人間の姿も変わり出したので、異形の人間もいることから妖怪は姿を見せるようになった。主人公は子連れで特区を訪れた男。

連れている子は亡き友人の娘で、主人公のせいで友人は死んだ。男は幽霊が見えることの研究をしていて、友人を妬んでいた彼はある実験に友人を参加させ命を落とさせてしまう。罪悪感から友人の娘を連れ、特区へと来た。

特区で妖怪に娘をさらわれた主人公は、探すために妖怪の百目の助けを借りることになる。

人間の姿も変わると妖怪も目立たない。実際にそんな未来もありそうです。

くさびらの道

寄生され感染すると死んでしまう寄生茸の病が、日本各地で蔓延するようになる。病にかかっている人間が出た場所は、隔離され外部と接触できなくなる。

主人公の男性は隔離された地域に家族がいる。連絡手段がないため家族の安否が分からず、妹の婚約者である病の対策本部職員と一緒に現地に潜入することになった。

病がこれほど広がった理由には、茸が人間に幻聴・幻覚を見せられることが関係している。茸のある物質は人間の脳に働きかけることができ、幻聴や幻覚の影響を人体に及ぼす。大切な人がいなくなった経験がある人は、いなくなった者の姿が幻覚の中で見える。

それを餌に、茸は近くに来るよう人を誘う。

夢でいいからもう一度会いたい人がいるのなら、茸の幻覚は死ぬと分かっていても手を伸ばさずにいられないのかもしれません。

饗応

主人公は人間ではなく人工知性体で、人名に使われる「貴幸」という立派な名前を持っている。生身の体を持たない存在を主役に添えたショートショート作品。

温泉が物語の中に登場して、ちょっとユニークです。

小鳥の墓

死を望む女性に救いを与える火星在住の男が主人公で、そうなるまでのエピソードが語られている。主人公の母親は死にたいという望みがあり、少年だった主人公に母親は「死にたい」といつも言っていた。

繊細な年頃の子どもにとって、母親の言動による影響は大きい。母親の心を救うのは「死」のみしかない。

成長し大人になった主人公は母親のように死にたいと思っている女性を見つけ、主人公が彼女を殺すことで望みを叶えてやるように…。

子どもの心を歪ませるのは近くにいる大人で、母親が死を望む言葉を子どもに聞かせなければ主人公の人生は違っていたと感じます。

おわりに

注目の女流SF作家の短篇集「魚舟・獣舟」は、とても読み応えがあるのでおすすめです。面白いSF小説を探している人は、ぜひ読んでみてください。


スポンサーリンク