丸尾末広が描く哀れな双子の辿る残酷な生の物語「トミノの地獄」


端麗な絵柄で猟奇的な性表現や暴力シーンを描くことが多い丸尾末広は、あまり長く話はなく短編の作品が中心です。
今回ご紹介させていただく丸尾末広最新作「トミノの地獄」は、短編ばかりの著者には珍しい長編作品となります。見世物小屋・異形の姿を持つ人間など、丸尾末広漫画の集大成ともいえる名作です。

スポンサーリンク

本の紹介

トミノの地獄は2014年~2019年にかけて、エンターブレイン発行の月刊コミックビームで連載されました。二卵性双生児の男女の姉弟を主人公にした暗くシリアスな物語です。

主人公である双子は、後に幽霊女優として名を馳せる母の私生児として生まれます。

結婚もしていない母に育てる力はなく、双子はほぼ捨てられる形で親戚に引き取られていきます。

双子は引き取られた先で、まともに名前すら与えられず虐待されて過ごし、ついには見世物小屋に売り飛ばされてしまいます。

親戚によって見世物小屋に売られた双子は、意外にも見世物小屋の人々に受け入れられ、親戚に邪見にされ心が休まることのなかった双子にとって初めて平和に暮らすことが出来る場所になっていくのです。

姉は「トミノ」、弟は「カタン」と新しい名前ももらえて、見世物小屋の仲間たちと舞台に立ちながら楽しい日々を送っていきます。

そのまま見世物小屋での安息の日々が続くか思えば、そこは丸尾末広作品なので、その展開はなありません。
姉トミノは新興宗教の教祖にされた見世物小屋の一員エリーゼの付き人になり、弟カタンは孤島送りにされてしまうのです。

引き離された双子たち。それぞれに苦難の運命が襲いかかります。

異形の人間たちの幸せと崩壊

見世物小屋は「トミノの地獄」の世界で重要な要素ですが、見世物小屋は人間社会で居場所のない者たちの寄る辺になっています。

主人公の双子トミノとカタンは見た目は普通の人間です。
見かけは常人の容姿をしていても、双子には感覚を共有できる特殊能力があります。見世物小屋で2人が行う芸は、この能力を生かしたもの。

新興宗教の教祖にされるエリーゼは蛸娘と呼ばれていて、4本の手と4本の足を持っています。ほぼ物言わぬ異形の姿を持つ少女を、欲深い人間が客寄せ集めに使う。
エリーゼ以外の仲間たちも、全身を毛に覆われた子ども、事故で片足を失った青年、大人になっても小柄な小人症の男。みんな世間一般から見れば異形であり、社会からつまはじきにされる立場にいる。

異形の人間を理解してくれるのは、同じく異形の人間だけ。普通の人間と違うとされる者を集めた見世物小屋は、彼らの家となり小さな幸せを異形の人々に与えています。

社会に受け入れてもらえない人間の居場所である見世物小屋は、異形の人間をお金もうけの道具にしようとする者の欲で次第に崩壊へと進みます。見世物小屋の仲間たちの小さな幸せも、お金の亡者たちの欲望で壊されていきます。

哀れな双子をもて遊ぶ残酷な運命

生まれてすぐに母に捨てられ、養い親に虐待され売られるという悲惨な目にあった双子。見世物小屋で穏やかな暮らしを手に入れたのに、また2人はそれを奪われてしまいます。生い立ちや育ちが哀れな双子を襲う運命は、生易しいものではありません。

トミノはエリーゼの付き人になった後に、怪しい男に引き取られ幽閉状態にされ、カタンは送られた孤島で体を改造されそうになってしまいます。

出生時から大人の勝手に振り回されて、自分たちの意思など許されなかった双子が行く所にはどこまでも茨の道が用意されています。
見世物小屋での幸せな日々を奪った一人である見世物小屋の興行師の男は、実はトミノとカタンの父親でした。父子は親子であることを、互いに知らず気づく事もありません。

実の父の手で引き離され、さらなる孤独の地獄を歩まされる。丸尾末広作品に登場する薄幸の主人公たちの中でも、双子の不幸はとても重いです。

おわりに

不幸、差別、異形、悪意。丸尾末広の作品は社会の中で負となる要素が、ギュっと詰め込まれ心が抉られる感覚があります。
「トミノの地獄」も心が痛くなる所が多いですが、それでもラストシーンは美しく記憶に残ります。

きっとこの地獄の物語は、後に名作と言われるようになるでしょう。


スポンサーリンク