今こそ自動車運転を見直してみよう!「交通事故学」が示す人間の不完全性とリスク


日夜、交通事故のニュースがひっきりなしに飛び込んできます。
事故現場の映像は痛ましく、目を覆いたくなるほど。

とりわけ近年は、高齢者が引き起こす死亡事故が顕著に取り上げられます。

自動車事故防止技術の発展がめざましい現代。
それでも人は、老若男女問わず、今なお交通事故を各地で起こし続けています。

ご存知の通り、人間は完璧ではありません。
我々の行為には必ず、ヒューマンエラーのリスクが存在しています。

本書は、人間の抱えるリスクを再認識させてくれる貴重な一書。
交通事故原因を詳細に分析し、類型化して理解を促し、注意喚起するのです。

本記事は、交通事故の観点から普段の運転を考えさせる「交通事故学」を、ご紹介します。

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「交通事故学」について

「交通事故学」は、2013年に株式会社新潮社が発行した新書です。

交通事故とその原因を、人間の心理状態や環境要因から考察する交通心理学。
この交通心理学に基づき、運転者の心理・行動パターンを示し、危機回避につなげる一冊です。

本書は終始、人は間違いを起こす生き物だという視点で論じています。
自らの経験や技術、自動車の性能を過信することに対して、釘を刺してくれるのです。

著者の石田敏郎氏は数多くの交通事故現場に立ち合い、データを収集・分析してきた専門家。
データに裏付けられた考察は、思い当たる節があるものばかり。

リスクマネジメントの観点からも、得るものの多い本書。
何かと「敵」の多い現代社会、交通安全以外のことで活用できる内容も多いです。

目新しい内容でもありませんが、今だからこそ読むべき一冊だといえます。

交通事故学が示すもの

交通事故の原因を端的に言い表せば、ヒューマンエラー。
ヒューマンエラーをどう防ぎ、どうリスクヘッジしていくのか。
これこそが、交通事故対策における至上の命題だといえます。

人間の不完全性に焦点を当てた本書。
以下、その視点に基づき解説していきます。

人は不安定で、間違えるもの

本書は一貫して、人間の不完全性を前提に置いた内容です。
そして、この不完全性はあらゆる場面でみられます。

近年の高齢者事故の主な原因は、身体機能の低下による操作ミスや動作の遅れ。
あるいは、認知能力の低下による誤った判断が挙げられます。

こうした原因は、言うまでもなく高齢者に限った話ではありません。
自動車を運転するドライバーが共通して抱えるリスクです。

ではなぜ、問題なく自動車運転できる人でさえ、事故を起こしてしまうのか。

実は、自動車運転というのは、我々が思う以上に多くの情報処理が求められます。
窓やミラーから飛び込む情報認識と、適切な動作対応を同時並行で行っているのです。

狭い路地では、人の飛び出しや脇を走る自転車や対向車とのすれ違いは要注意。
高速道路だったら、車間距離やスピード、合流車や追い越し車両の車線変更など。

認識や判断にせよ、動作にせよ、誤りや遅れは事故の危険性を高めます。
交通量の多い幹線道路や高速道路ならばなおのこと。
一瞬の判断ミスが、命取りとなるのです。

その他、時間帯や天候の変化がもたらす変化にも注意が必要でしょう。
焦りや不安といった心理状況は、注意散漫な状況を生み出します。

人は生き物である以上、必ず老いるもの。
それでも熟練ドライバーには、今までの運転実績による経験知があります。
つまり、予測能力は若年ドライバーより高く、危機回避能力は十分に高いのです。

しかし、体が思い通りに動かない。
このギャップを受け入れられない高齢者ドライバーは、事故リスクが高いといいます。

一方、若いドライバーは路上運転経験が足りません。
どんな危険が潜んでいるのかと、最初のうちは慎重な運転を心がけます。

しかし、実際の道路交通は流れに乗った走行が求められることも事実。
こうした運転が決して悪いわけではありません。
ただし、「流れ」に乗れない車にいら立ちを覚えるドライバーが一定数いることも事実です。
「ハンドルを握ると人が変わる」の言葉通り、人は車に乗ると急ぐ傾向にあります。

若年ドライバーは、交通の流れを乱すことに焦り、緊張と不安で頭がいっぱいになりがちです。
交差点右折で後方車を連ねているときなどが最たる例。
余裕のなくなったドライバーは思わぬミスを犯し、事故となるケースが多いのです。

年齢とともに、リスクやそれを回避するための方法は変化します。
この結論は、事故調査を年齢別、運転年数別などで分析した結果を裏付けとしたもの。

今回は年齢で見たドライバーの特徴を例示しました。
ですが、本書はその他さまざまな角度から運転傾向やリスクを分析しています。

本書は、人は間違いを犯しすぐに安定さを欠く存在だということを、ありのまま突きつけます。
加えて、今後のリスク回避の一助として、自分がどの層に属するのかを知らせてくれるのです。

リスク敢行性とその結果

運転時、人は常に交通事故のリスクがつきまといます。
このリスクをいかにして回避していくかが、ドライバーに求められる資質と言えるでしょう。

そんなリスクだらけの行為は、自己防衛の本能に反しています。
が、人間を取り巻く状況はそこまで単純ではありません。

業務上車に乗る人は多いですし、移動手段として不可欠な人もいます。
単純に運転が好きという人が多いのも、自動車の保有比率を見れば納得いくものです。
レーサーが職業として存在するのも、人々が運転を求める理由の1つ。

運転を楽しむ人の動機は人それぞれ。
その中には、スリルを味わいたいという理由で運転を好む人も存在します。
峠の走り屋や首都高速のルーレット族などが有名でしょう。

こうした人の運転はとても安全とは呼べません。
オーバースピードや一時停止違反など、交通法規を違反する行為が見られることも。

著者は、このような人は運転に対するリスク敢行性が高いと称しています。

彼らのような「あえて」スリリングな運転をする人は、違反歴もまた多いもの。
しかし、違反は多くても、事故を起こす割合は思いのほか少ないのです。

筆者もかつて、タクシーの運転手に言われたことがあります。
「流れが詰まりがちなときに走り屋が来ても、奴らの方が運転が上手いから下手に動かない」
今にして思えば、運転手の言っていたことは的を得たものでした。

本書が示しているデータもまた、同様の結果を出しています。
これは、ドライバーを事故または違反をした経験の有無で区別したもの。
このうち、違反経験ありの群は、事故経験の割合が最も低いものでした。

なんとも皮肉な結果を示し伝える本書。
当然ながら事実を述べるのみとしていることは、念のため申し添えしておきます。

車に置いていかれるドライバー

本書は、交通事故を多角的に分析した結果を伝えています。
交通心理学と言う見地ゆえ、分析結果は人間によるものが専らです。

一方で、現在の自動車の交通事故防止技術の進歩にも触れた本書。
非常に興味深かったのが、人間の能力が自動車に追いついていないという視点でした。

悲惨な事故を防がんと、自動車は日々進化しています。
本来ならば、事故は劇的に減少していってもよいと考える人も多いでしょう。
しかしながら、現状はご存知の通りです。

そもそもの話として、人間の能力は自動車の性能に対応しきれていないと言います。

人間はもともと、歩行を移動手段として進化を遂げてきました。
しかし人類は、約百年前に自動車を発明しています。
同時に、この劇的な進歩は人類にはあまりに加速しすぎたものでした。

自動車は時速100km超のスピードを出します。
このスピードは、歩行のために調節されてきた視力や感覚では対応できないのです。
たった百年ぽっちでできるような次元の話ではありません。

また、自動車の多機能化も置いていかれる理由の1つとして挙げています。

現在の自動車は実に様々な機能を備えるようになりました。
事故防止技術はもちろん、快適な車内を実現する機能も。

これらの機能ですが、全て使いこなしていると認識している人は少ないでしょう。
知っていても使い方が分からなかったり、そもそも知らなかったりと程度は様々。
これは単に高齢だからという理由だけでは説明できません。

このように、愛車に何が乗っかっているのか理解しきれていない現状があるのです。

加えて、人の諸機能が十分に発揮できない不安定性もあります。
動作対応ができなければ当然、車はそのポテンシャルを発揮できません。

車に対する理解と、人間の不完全性。
本書は、これらを見つめ直すことで見えてくるものを伝えています。

知ることでできること

ここまで、人間の不安定さや不完全さについて述べてきました。
「交通事故学」の主題は、まさにこの点にあります。

本書が示す客観データは、いわば人間固有のものとして備えられたものです。
いくら直したくても直せないものもあります。

一方で、運転に関する人の傾向を知ることは決して無益ではありません。
意識的に注意したり、対策を考えたりすることはできるからです。
そしてそれは、多少なりとも事故や違反を減らすことに一役買っています。

仕方のないことだといって、諦めるのは間違いです。

自分の能力や傾向を客観的に知っておけば、無茶な運転や思い込み運転はなくせます。
熟練ドライバーとなるにつれ、自分の経験を頼りがちに、思い込みは一層増すもの。
こうならないよう、「身の丈」を知っておくことが重要だと、本書は説いています。

いくら自動車や道路構造物が進歩しても、対応できなければ意味のないこと。
これもまた、知っておけば対応できることは数多く存在しています。

昨今は自動運転技術が本格化していますが、依然としてマニュアル操作要素の多い自動車。
現在のテクノロジーならば、完全自動運転化が実現する日もそう遠くないでしょう。

それでもマニュアル操作が根強く残っているのは、人が走る楽しさを知っているからです。
自動車には、心に潤いを与え、人生を豊かにする「機能」も確かに備わっています。

その喜びを最大限味わってもらうためにも、交通事故はなんとしても避けたいもの。
厳然たる事実を突きつける本書は、自動車社会の行く先を見据えているのです。

おわりに

実は、筆者は交通事故の経験があります。
右折時にとまどい、乗っていた軽自動車は突っ込んできた乗用車と衝突しました。

幸いけが人はなく、対物事故扱いで済みましたが、しばらくは右折が怖かったのを覚えています。

その影響からか、今現在はあまりスピードも出さないようになりました。
流れを見つつ、無理のない運転を心がけています。

それでも、ヒヤリとする場面には何度も出くわしました。
本書が述べることは、実体験として非常に正確な分析だといえます。

交通事故は、程度に限らず関わった全ての人を不幸にするもの。
本書を頼りに、少しでも多くのリスクが事前に潰されることを、願ってやみません。


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