
「愛」という感情は目に見えず、どんなものか分からないものです。人は目に見えないものは信じられず、「愛」を信じられない人もいます。不確かな「愛」について知りたい人は、『木霊みょうと』と本を読んでみませんか?きっと切なくも美しい「愛」の形を見ることができます。
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大人向けの大人が読むべき絵本
『木霊みょうと』は児童小説を多く出している出版社・ポプラ社から出されています。
本のジャンルは小説ではなく、絵本です。
絵本は子ども向けの本なのですが、この本は大人のための大人向け絵本。
絵は「風の画家」として有名な絵師・中島潔氏が担当しており、しっとりとした色気の漂う女性が描かれ子ども向けの絵本にはない艶があります。
大人向け絵本であるので主人公も大人です。
木霊みょうとのあらすじ
主人公は山深くにある村で仲睦まじく暮らす夫婦・夫の辰平と妻の文。
幸せに暮らしていた夫婦は、不思議な力の介入で不条理にも住む世界が隔てられてしまう。
夫を一途にただ想う文は、辰平といるために……。
文の夫を求める姿が、艶めかしく痛々しい。静かな強い愛を持つ女性の姿が、中島潔氏の絵で、著者の吉本直志郎氏の繊細な文で表現されています。
悲劇は前触れもなく夫婦にふりかかった
畑を耕して穏やかに暮らしていた若夫婦の辰平と文。いつまでもそんな日々が続くと思えば、山仕事に行った辰平が行方不明となります。
夫の帰りを信じて待つ文は自分の足で懸命に辰平を探し、いくつもの季節を一人淋しさに耐えてやり過ごす。夫を健気に想い続ける文は中島潔氏の絵で物憂げな眼差しを見せ、何だか性別関係なく読者は保護欲を刺激されます。
辰平を待ち焦がれる文は、夫の夢をある日見ます。
辰平は「身動きできないさだめ」になったと夢の中で告げ、文は辰平が消えた山へ向かう決意をする。
辰平を襲った悲劇とは?
それはとても不条理で、山でたまたま魔性の者に出くわしてしまい木の姿にされてしまったのです。
人の姿を失い木に変わってしまった辰平は、人の世界と最愛の文と隔てられて異界に生きることになります。
子ども向けにない「人」をあざ笑う「人」の醜さ
子供向けの絵本もいじわるな子が登場することがありますが、基本的にそれほど陰湿は感じません。
「木霊みょうと」は子ども向け本とは違い、醜いと感じるほどの陰湿な人間が登場します。
文の住む村の人々は辰平が行方不明になった当初は、同情的で慰めたりもしていました。
けれど、いつまでも夫の生存を信じて探す文を笑い者にするようになり、「文は狂っている」とひどい言い方までするようになっていきます。
現実にも最初は同情して、途端に手のひらを返し攻撃する人間は多いです。
愛する人の無事を祈る文を、あざ笑う村人たちは人の持つ「闇」を感じさせる。
物語の中に闇があるからこそ、文の辰平への愛が尊く清く映ります。
妻は夫と添いとげるため全てを捨てる
夫に再び会いたいがために、山の険しい道にも臆さず文は歩く。でも、どんなに探しても、辰平は見つからない。
絶望で生も諦めかけた文の前に、夫を木に変えた魔性の者が現れます。
辰平が自分の元に帰れなくなった理由を知った文は、人の世界に戻るよう諭す魔性の者に自身も同じように木に変えてくれるよう願います。
人であることさえ捨て、彼女は夫の側にいることを選びました。
文は魔性の者の言霊によって、人の姿から木へと変じる。文の木は辰平の木に絡みつき、二人を隔てるものはもう何もなくなります。
生まれ持った姿形を手放してまで、文は辰平と一緒になることを望む。
文には辰平が「全て」であったから。
「愛」とは何か?
文の行動に、あなたはその問いの答えを見ることができるでしょう。
おわりに
透明感のある文章と美しい絵で紡がれる「木霊みょうと」。「愛」を信じてみたい人・知りたい人は、「木霊みょうと」で辰平と文の愛に触れてみてください。
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