人食いカニさんの結末が涙を誘うホラー小説「かにみそ」


人の恐怖心をあおるホラー小説の定番の方法に、人間が化け物に食べられてしまう流れがあります。同じ種族の人間が喰われるのはグロくて、見ていてゾクゾク背筋が冷えますね。

人食いホラーは生理的嫌悪感が湧き上がりますが、それと一緒に切なさがこみ上げる不思議な読後感のある人食いホラー小説が日本には存在します。

今回ご紹介したい本は、「かにみそ」という小説です。人が食べられる血生臭い展開の後に、切ないラストが待ち受けています。

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「かにみそ」についての紹介

「かにみそ」と言うとてもシンプルなタイトルが逆に目を引くこのお話は、倉狩聡さんという作家が書いています。倉狩聡さんは実力派のホラー作家を輩出している「日本ホラー小説大賞」の優秀賞を、「かにみそ」で受賞しました。書籍としては短篇集で出版されていて、もう1作「百合の火葬」が収録されています。

「かにみそ」はやる気のない青年の「私」が主人公です。この主人公は思考が読めないタイプで、海岸で見つけた小さなカニをなぜか拾ってくる。青年に拾われたカニは彼と話ができ、好き嫌いなく何でも食べられた。カニは底なしの食欲があり、大量に餌を消費する。

無気力な青年は実家でニート暮らしをしていましたが、ご飯代がかかる大食いカニのために働きに出ます。仕事先で女性と出会い肉体関係を持つ仲になりますが、青年は彼女を殺してしまいました。

食いしん坊のカニなら彼女の死体を食べるかと考えた青年は、試しに殺した女性の死体の近くにカニを連れて行きます。カニは死体をムシャムシャと食べ、人肉の味を好むようになってしまいます。青年は人肉に目覚めたカニに人をご飯として与えるために、カニをお供に餌となる人間狩りをスタートすることに…。

この話はそこらへんの海にいそうなカニが人を食べるというのも怖いですが、ペットのカニのご飯になりそうだからと同族の人間を狩れる青年の方がもっと怖いかもしれません。

ぼんやり系サイコパス主人公と哀れなカニ

主人公の青年は淡々としているというか、ぼんやりした感じのする人間です。感情の動きは常人とはだいぶ異なっていて、海にいるカニを拾ってみようと思うところも変わっています。

平常において気持ちが昂ることのない冷めた青年は、カニによって興奮を覚えるようになる。自分が殺した女性をカニが美味し気に食べている光景に、青年は危ない高揚感を持ってしまった。

「かにみそ」が本当に怖いのは青年がカニへの餌として同じ人間を提供できることですが、主人公は他人に共感しにくい良心が欠如しているなどの点でサイコパスである可能性があります。

興奮を味わえるカニの人肉シーンを見たいために、人間の命を奪える青年は正常な心を持ってはいないでしょう。

彼に拾われ人肉を食べるようになったカニは、話ができ胃袋が底なしという以外は普通のカニさんでした。青年が人を殺めてカニに食べさせたのをきっかけに、図らずも人の味に目覚めてしまったのです。

人を食べるカニは人の血に濡れながら食事をするのは怖いですが、基本は無邪気で可愛らしい性格をしています。サイコパス的な青年のせいでカニは、普通のカニからかけ離れてしまいました。

愛くるしくしゃべるカニのことを考えると、人肉喰いカニにされてしまったことが哀れに見えてきます。

カニの切ない終わり

モグモグと人肉を食べるカニと人肉を餌に提供する青年でしたが、仲睦まじく送る人を食べる毎日にも変化が訪れます。

狂った心を持つ青年にもひとかけらの善の部分はあり、自分の行いに悔いを感じて苦しむようになる。自分の欲のためカニに人を食べさせていた彼は、己の罪に気づいたことで人を食うカニを自身が葬らなければならないと思う。

青年の苦悩を悟ったカニは抗うことなく、青年に自分を食べて自分の命を取るように促す。

カニの結末は書きませんが、青年を想って選んだカニの行動はとても切ないです。

おわりに

「かにみそ」は人が食べられるシーンが気色悪く、そこがホラーとしての強みになっています。でも本当のホラーは自分の罪隠しと興奮のために小さなカニの道を歪めた青年の心、人肉を知り普通のカニから「逸脱」してしまったこと。
カニと青年が出会わなければ、カニも青年も平穏に暮らせたのか?でも出会ったことでカニと青年の間に心の絆ができた。カニの切ない結末を見ると、あれこれ考えやるせなくなります。


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