
「ワナオトコ」は、2009年に劇場公開されたアメリカのホラー映画です。
原題は”The Collector”。
こう聞くと邦題がなんともマヌケな感じで、よくある雑なB級ホラー映画と思われがちです。
しかも邦題のキャッチコピーは「その罠(トラップ)-匠の技」ときてます。
ある意味、ひきつけられる何かを感じずにはいられません。
しかしこの作品、決してあなどるなかれ。
B級はB級なんですが、ストーリーがなかなか緻密に作られており、ドラマ部分の楽しさもある良作なんです。
なお、この作品は「SAW」シリーズの脚本家コンビが手掛けています。
標的とした家の中から1人を連れ去り、残りは皆殺しにするという猟奇殺人鬼と、偶然入った空き巣泥棒がまさかの鉢合わせ。
家の中という閉鎖空間内で繰り広げられる、パニックありアクションありの緊迫感十分の脱出劇です。
ホラー作品のためグロテスクシーン盛りだくさんなので、それ系が大丈夫な方にはオススメです。
ワナオトコのあらすじ
アーキンは、建具補修の仕事を受けているマイケル宅の金庫から宝石を盗もうと忍び込む。
金庫破りを始めたそのとき、通気口から異様な叫び声が聞こえてきた。
マイケル一家は今日から家族旅行に出かけているはずで、マイケル宅には誰一人いないはずなのに。
警戒するアーキンが踏み出した足の先には、張り詰めた一本のピアノ線-
ワナオトコの主な登場人物
アーキン(ジョシュ・スチュワート)
表は建具の補修職人、裏は元空き巣泥棒という2つの顔がある。
妻の抱えた借金を期限までに返すため、仕事で出入りしているマイケル邸に空き巣に入る。
マイケル(マイケル・ライリー・バーク)
アーキンに家の建具補修を依頼した人物。
宝石仲買人をしており、家庭は裕福。
ハンナ(カーレイ・スコット・コリンズ)
マイケル一家の次女。
アーキンによくなついている。
男(ワナオトコ)(ファン・フェルナンデス)
正体や目的など、一切が謎に包まれた猟奇殺人鬼。
ターゲットとした家のいたるところに凶器を付けたトラップを仕掛けて殺人を楽しむ。
ワナオトコの見どころとは
匠の技が見せる凶器=狂気の美しさ
ワナオトコの見どころといったらまずはやっぱり、巧妙に仕掛けられたトラップの美しさにあります。
今作の殺人鬼はただの人殺しではありません。
普通なら斧だのチェーンソーだのを使って襲い掛かるんですが、この男はあえて家にトラップを仕掛けるんです。
その仕組みはさながらピタゴラスイッチのよう。
計算し尽された配置は見事で、トリガーの部分に引っかかってからトラップが動き出す様子は見ていて気持ちいいんです。
まあ、人を殺したりする装置を見て「気持ちいい」と言うのはちょっとアレなんですが(笑)。
それぐらい匠の技だってことなんです。
男には殺人について確固たる「美学」があるんでしょう。
いや、「美学」というより「主義思想」、あるいは「性癖」というべきか。
全編通して、素性や目的などは一切わからないんですが、犯行スタイルだけは徹底したものです。
家の薄壁1枚越しの攻防
アーキンがトラップや男の接近をギリギリでかわし、危機を逃れていく姿は一見の価値ありで今作の見どころの一つです。
というのもアーキンは面白いくらいトラップに引っかかっちゃうんです。
トラップに引っかかると男は作動したところを確かめに来るんですが、それでもアーキンは男との対面をなんとか回避していきます。
隣の部屋から移動する男を、別のドアを使って入れ違いに避けたり。
2階に上がってくれば、洗濯物シュートから滑り降りて1階に逃げたり。
アーキンと男を分かつのは家の薄壁1枚、まさに死と背中合わせのスリル!
ギリギリの緊張感が作中ほぼずっと続くため、終始ドキドキハラハラ、目が離せません。
【ネタバレ注意!】想像しがたい物語の結末
衝撃のラストにも注目です。
ホラー映画に多いのは、なんとか生き残るという前向きな結末ですが、これはそうじゃないんです。
アーキンは大ケガを負いながらも、唯一生き残ったハンナを連れて家から脱出します。
ハンナを警察に渡した後、救急車に乗せられてから、どさくさに紛れて盗んだ宝石を換金するため妻に電話をかけます。
しかし、なんと彼は男に救急車から引きずり出され、そのまま大きな箱の中に押し込められてしまう。
で、物語はなんとここでおしまい。
ハンナだけは助かるという救いの要素はあるものの、主人公がバッドエンドを迎えるというこの衝撃。
何とも後味の悪い終わり方は、見た人によっては賛否両論かもしれません。
主人公の背景が見せる「救い」
そして最後は、主人公アーキンが見せる善人の部分です。
これもまた、ただでさえラストが気持ち悪い今作における数少ない救いの部分となっています。
アーキンは泥棒を行っているわけであり、本来ならば悪人なんです。
けれども、相手はそれをはるかにしのぐ悪人であり異常者。
男と比較してみれば、アーキンは「まだましな」存在と位置付けられるでしょう。
マイケル一家が拘束され、拷問される現場を目撃した彼は、全員をなんとか助けようとします。
このアーキンの決意は、人間の善の部分の表れそのもの。
さらにこの悪人対極悪人の構図が、アーキンの善人の面をより引き立たせているんです。
なお物語前半には、アーキンが我が娘を大切に思っていたり、娘と年の近いハンナが娘と重なる場面が描かれています。
アーキンは根っからの悪人ではないという人物像を描き、深みを与えたことで、物語に入りこみやすくしているニクい演出。
なかなか練り上げられた作品構成となっています。
おわりに
ホラー映画というのは、話の展開が結構ワンパターンなんです。
原因不明の怪奇な事件や現象が起こり、それを解決する、ときには戦うという設定。
なるほど、どれを見ても同じだと言う人の気持ちもうなずけます。
そこで、多くのホラー映画はメインの「異常な存在」にキャラ付けをして、作品に独自性を持たせるんです。
このキャラクターの差別化に成功すればヒット作になりますし、逆にできなかった場合は「いつものお決まりのやつ」で終わっちゃうわけです。
ワナオトコは、その異常な存在のキャラ差別化を見事に成功させています。
だって、トラップを使った異常な犯行に愉悦を感じる殺人鬼ですよ?
独自性もインパクトだって十分です。
それに加え、男の猟奇的な部分を全面に押し出した、恐怖と戦りつ煽りまくりの演出。
なかなかみられない、主人公の相対的善人の面を中心に見せるドラマ部分の出来の良さ。
そして、誰もが想像できなかった物語の結末。
「匠の技」は、罠に限らず随所散りばめられていたのかもしれません。
どうです、なんとなく「怖いもの見たさ」がかきたてられませんか?
たまには意外と趣向を凝らしたB級ホラー映画もいいものかもしれませんよ!
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